学校の働き方改革 現職審議会
ぶら下がり会見 17.11.28
【会見内容要約】
—記者:中間まとめ案について率直な感想を。
斉藤:がっかりした、というか、憤りを覚えるようなところもありました。
部活動について。本日の「案」がそのまま中間まとめになってしまうとしたら、部活動が学校の(本来)業務であるとなってしまう。将来的にはできるだけ外部に委ねていくということも書いてありましたが、現状では学校の業務であると。それは私たち現場の認識とは違いました。ともすれば、今回のまとめによって、部活動は教員が担わなければならないものであるという定義変更がなされてしまう。ここに憤りを覚えたのです。
本日唯一救いだったのは、相原委員が「部活動は本来教員の仕事ではないはず。それを書き加えるべきだ※」という旨の発言をしてくれました。それは私たちの認識と合致するものであります。部活動というのは、早急に教員の仕事から外していかなければ。特に新しい学習指導要領で、より質の高い授業が求められる中、授業だけでも手一杯。
結局、21世紀型の授業を提供するか、それは諦めて部活を選ぶか、どちらかしかない。もちろん、僕たちは教員として、21世紀型の学びを提供するという事に力を尽くしたい。
また、給特法について。これも今日の時点では全く点数を付けられない。今日の案では、「給特法は問題である」と示されているだけで、今後どのように議論が続くのか。続けてもらわないといけないですし、これも相原委員がおっしゃっていたように、給特法に特化した専門部会を設けて、それで一年とか一年半とか、法律の専門家を交えて十分に議論していかなければなりません。
給特法については、現状に合わせたパーセンテージに改めるような改革ではなく…先ほどの審議で、調整額を現状に合わせると40%に上るというような話がありましたけれども…それに合わせるという改革ではなく。現状を是認するような改革ではなく、沢山の残業をゼロにしていくための改正が必要である。それには「残業代が出る」ということでもって、時間外勤務を抑制していくという方向に改めるべきだと思います。
ともかく今日の時点では給特法の改正について何ら示されていませんでした。今後、議論を続けて頂くということが大切かと思います。
総じて、今日の案というものは、0点ですし、もしくはマイナスを付けてもいいくらい。部活の位置づけというのが改悪されるのであれば、とんでもない。憤りを感じました。
—記者:その他、訴えたい事は?
斉藤:私たちが記者会見までして声をあげたのは、最も大事な所が外されたまま議論が進んでいると感じたからです。大事な所というのは、3つです。
1つ目は、部活動の位置づけを明確にする。部活動というのが教員の職務であるのか否か。職務である訳がないですが、そういうところをはっきりとして頂く。「教育活動の一環である」という曖昧な文言のまま、現場は苦しんでいます。
2つ目は、法律が現状に合致していない。給特法ですね。これがこれから議論されると信じたいですが、中間まとめ以降も、今まで通り2週間に一回くらいのペースで中教審が行なわれ、もしくは専門の給特法について話す部会が立ち上げられ、給特法というものについての議論を続けて頂きたい。
3つ目として、今日の議論の中にもありましたけれども、結局、色々な矛盾点をついていけば、圧倒的に教員数が足りていない。本当は、教員数を大幅増してもらえれば、多くの部分は解決するものだと思います。私たちは、中教審や文科省に提言を続けてきましたが、本当は財務省に提言を出さないといけないとも考えています。
部活の位置づけの問題と、給特法の改正の問題と、教員数の大幅増について、これが柱と考えております。
※参考:相原康伸委員の言葉
「『部活動指導が教員の本来業務でないことを明確にするとともに、将来的には(学校以外が担う事も積極的に進めるべきである)』と加筆修正した方がよい」
▼会見内容についての補足
学校における働き方改革「中間まとめ案」は危険だ / 斉藤ひでみ (教員)
11月28日、第8回の中教審(学校における働き方改革特別部会)を傍聴しました。ここで「中間まとめ(案)」が出された訳ですが、当日の様子と、この案について感じた事をまとめます。
まず僕が言いたいのは…。この案が報道されてから、ツイッターで一斉に「とんでもない」との意見が溢れました。それは「炎上」と呼べるものでした。しかし、その反応には誤解もあると感じたので、詳細を伝えたいと思います。
◯委員の皆さんは頑張っている
間違えてはいけないのは、「委員の皆さんは頑張っている」ということ。特に、「案」についての審議の前に、部活のあり方について個々の委員さんが私見を述べた下りでは、僕らの思いを受け止めて下さる発言が相次ぎ、涙が出そうになった。その様子は、「夏頃の審議とは雲泥の差だ…」と感じるものだった。
◆妹尾昌俊 委員(学校マネジメントコンサルタント)
「部活動の位置づけが曖昧なままで、学校教育の中なのか外なのかということがよく分からんというのがある。学習指導要領上の記述では『教育課程外なんだけれども、やるんだったら教育活動の一環としてやってね』ということであると考えています。この規定を誤解されているんじゃないかと思う校長もいて、「学習指導要領に書いてあるんだからやりなさい、顧問をしなさい」と言う校長もいるやに聞いてます。これは『やるんだったらしっかり学校教育活動としての効果を考えてやって下さいね』という事だと僕は考えています。その辺りの理解もしっかりと浸透させていくべきだと考えています。生徒の自主的な活動であり、超勤四項目にも該当しないのが部活動でありますけれども、勤務時間外に活動することが当然視されていますし、土日の部活については特殊勤務手当の一部として部活手当も出ると。要するに業務なのか、自発的な教員の活動なのかがよく分からんままに、でも何で手当が出てるの?というのがあって、非常にこの辺りが中途半端。仕事なのか何なのか、でも超勤の命令は出せないし、と。部活に限らないですけど、業務なのかどうなのかというのはよく検討する必要がありますし、労働法の専門家の意見を聴きながら議論を進めていかないといけないんだろうなと思っています」
◆天笠茂 委員(千葉大学教育学部教授)
「経験年数で、部活の担当を配慮する必要があるんじゃないかと。私は先生方が授業や授業の準備に本来的に専念する、そういう体制・環境を作る事が大原則じゃないかと思っています。まずは授業、学級経営というところに力を使って頂いて、その経過を見ながら、部活の担当を考えていくというキャリアの形成の仕方もあり得る。そういう事から言えば、初任から3年くらいは、原則として部活の担当は外れて頂いて、一定の経験年数の後に部活の担当もお願いするという」
「月曜から金曜までと、土日というのが、一体となって繋がっちゃっている。改めて週5日制というのが、随分変質してきた。例えばそれならば、月曜から金曜までの担い手と、土日の担い手をはっきりと区分けしていくというあり方も検討していく必要がある。土日が月〜金の延長上になっているということ自体、もう一度見つめ直す必要がある」
◆青木栄一 委員(東北大学大学院教育学研究科准教授)
「今回のスポーツ庁の資料を見ても(当日配付資料)、これまでいかに社会や家庭が、教員の熱意にフリーライドしていたのかがよく分かる」
「フルセット型の部活動は見直した方がよい。中学校なんかでも、全ての部活動が揃っていないとみっともないという認識は改めていったほうがよい。またお金のかからないことで出来そうなことを言いますと、上限規制が一つ。また教育行政の中でできる事として、採用の段階で部活動を意識した採用が行なわれているとすれば、やはりそれは好ましくないんじゃないかと。そういうことにメスを入れていった方がいい」
◆佐古秀一 委員(鳴門教育大学理事)
「そもそも自主的自発的なものと位置づけられている部活動に、教員が毎日3時間も、教科等と別に、時間をかけるというのが当たり前で良いのか。もしもそれを学校の仕事としてやるべきだという事であれば、スポーツ担当の人間を動員してやらないといけない。つまり、教育活動上の位置づけをどうするかということに議論を進めないと。単に外部人材でどうするかなんてことだけではいけない」
◆田野口則子 委員(横須賀市立野比小学校長)
「部活動は中学校においてさえも、実施を義務づけるものは特段なしということですけれども、全国の中では、小学校においても部活動が行なわれている地域があります。調査さえもかかっておりませんので実態が明確になっておりませんけれども、ぜひ小学校の部活動も議論の中に入れて頂きたいと申し上げます」
◆善積康子 委員(三菱UFJリサーチ&コンサルティング主席研究員)
「部活動に対する教員個々の考え方が違っていて、それは皆さんがおっしゃったように、部活動というのは位置づけが曖昧であるということで、その判断をそれぞれがされているということがあるんですけれども…。部活動に非常に熱心な先生の声が、なんて言うんでしょうかね、全体の雰囲気を規定してしまう所がどうもあるらしくて、本音ではそこまで部活をしたいと思っていない先生が、その先生に引っ張られて、本音の声が外に出しにくくなっている。不満を溜め込んでしまっているという実態が見受けられました」
僕らのネット上での発信と同様のことを、多くの委員さんが代弁してくれたように感じる。ここに紹介できなかった発言も含めて、実に委員さんの半数以上が、僕らの思いを汲んだ発言をしてくれるようになった。
○一方、中間まとめ(案)は危うい
ところが、その後の審議で持ち出された、例の「中間まとめ(案)」になると、こんなくだりが出てくる(誰がまとめたのでしょう、文科省の方でしょうか?)。
◆部活動の位置づけ ※ナンバリングは斉藤ひでみによる
①「中学校及び高等学校現行の学習指導要領では、部活動は教育課程外であるが、学校教育の一環として、教育課程との関連が図られるよう留意することとされており(中略)」
②「したがって、部活動については学校の業務として位置づけられ、現状では、教師が担わざるを得ない状況である(中略)」
③「なお、将来的には、教師が授業や授業準備等の本来的な業務に注力できるようにするためにも、地方公共団体や教育委員会において、学校や地域住民と意識共有を図りつつ、地域で部活動に変わり得る質の高い活動の機会を確保できる十分な体制を整える取り組みを進め、環境が整った上で、部活動を学校単位の取り組みから地域単位の取り組みにし、学校以外が担う事も積極的に進めるべきである」
一見して、部活動を学校から切り離すべきだという論理展開に思える。しかし、これを見て、「前進した」と喜んではいけない。
実に、①から②の流れは、これまでに何度も、管理職が教員に部活指導を押しつけるために用いてきた論理と一緒である。
こんなことが中教審のお墨付きを得て発表されると、今まで以上に管理職はこれを根拠として教員に部活顧問を堂々と押しつけるようになる。結果、現状の学校部活は残り続け、②から③に至ることはないだろう。また保護者からも、「部活は(とりあえず今は)学校業務なんだ」ということでクレームもつけ放題となる。
これは現場の教員をただただ苦しめる位置づけであり、改悪である。こんなものは、出してもらわない方がまだましだ。
今まで、僕たちはこう言ってきた。「校長先生、部活は職務じゃないんです。だから部活顧問は辞退させて頂きます」「保護者の皆さん、部活は教員の善意で行なっているボランティアなんです。職務じゃないんです。だから、こちらの方針に従って頂き、顧問の無理のない範囲で務めさせて頂きます」。これら全てが使えなくなってしまい、「顧問をしろ」「責任を取れ」ということに利用されてしまうだろう。
とにかく、これが出てほくそ笑むのは、管理職なのだ。この「学校における働き方改革」とは、苦しんでいる一般教員の為のものではなく、管理職の為のものだったというのか。
しかし、絶望するのは早い。これは委員さんではない誰かが作った、「案」に過ぎない。この案が確定するまで、あと10日程(12月12日の審議)。どうかこの文言に、修正を加えて頂きたい。それができるのは、中教審の委員さんだけなのだ。
僕は委員さんを信じる。
実際に相原委員がすぐさま、具体的な修正提案を行なった。
◆相原康伸 委員(日本労働組合総連合会事務局長)
「『(③の)将来的には』というところですが、先ほどの議論を踏まえますと、『部活動指導が教員の本来業務でないことを明確にするとともに、将来的には』と加筆修正した方が、現在と将来についての記述として十分になるのではないかと思います」
僕はこれに、100%同意する。
(なおこの他にも、この日の相原委員のキレは際立っていた)
◯部活動以外について(給特法関連)
これ以外も、今回の審議では学校の働き方改革の根幹に関わる、とても重要な話が続いた。
まず、教員の超勤に上限を設けるということ。僕はこれに同意する。現状、上限規制なしの働き方である。せめて上限は設定した方が良い。しかしそうなると当然、給特法との矛盾が出てくる。矛盾にぶち当たればいいのだ。そこで初めて、給特法を改廃せざるを得ないという流れが起こってくる。
当の給特法については、中間まとめ(案)では、「給特法には現状こんな問題がある」と指摘するに留まっていた。浅すぎる。もっと議論を深めてもらいたい。これからも、今まで通り2〜3週間に一度のペースで、給特法に特化した議論を行なってもらいたいと思うし、もしくは今回の中教審を閉じた後に専門の部会を新たに設置して、法律の専門家を多数交えた議論を始めてもらいたいと思う。
次回の中教審は12月12日(火)15:00〜17:30、永田町駅すぐの場所を予定