現職審議会 2017.10月某日
審議の冒頭、特別ゲストとして中教審委員の妹尾昌俊さんにご登場頂きました。
現職審議会について思うことや、審議を行なうに当たって参考にするためのいくつかの質問に答えて下さいました。
※コメントはあくまで妹尾さん個人の見解であり、中教審を代表するご意見ではありません。
【 プロフィール 】
妹尾 昌俊(せのお まさとし)
【活動】教育研究家、学校マネジメントコンサルタント
【得意なテーマ】
学校のマネジメント、学校改善、多忙化対策・業務改善、カリキュラムマネジメント、チームづくり、チーム学校、地域連携、コミュニティ・スクール、人材育成・モチベーションマネジメント、事務職員の役割
Q1:現職審が出した5点 についてはどう思いますか?
A1
現場の先生が国の政策や自身の現状について声を出してくれるのは、とても重要なこと、とても有り難い。おそらく文科省でも結構ツイッターを見ている人もいると思う。また、中教審の委員の多くは、この5つについては問題意識をもっている。
現職審から提言を出す場合は、複数案出してもらってもよいかもしれない。お金がどれだけかかってもOKならば、こうしてほしい。それが難しい場合には、こうしてほしい。そんな風に、いくつかの提言を出してもいいかもしれない。
Q2:給特法 について、どうなるとよいと考えていますか?
A2
給特法だけが諸悪の根源、とは思えない。給特法と超勤四項目がセットで、すでに、これ以上ない上限規制がかかっているわけで。しかし、それが守られていないことが問題。超勤四項目が有名無実化しているのが問題であると思う。ただ給特法によって残業代が出ないシステムになっているので、それが無定量の残業につながっているのは問題。
もっと根源的な問題は、子どものためならどこまででもやって当たり前、という行政・管理職の意識にもある。給特法で一律4%という金額も低すぎる。
中教審の多くの委員も、給特法について議論を避けているのではなく、問題意識は高いと思う。実際、何名かの発言はあった。ただ、財政負担にも関係するし、1回や2回の会議では議論しつくせないだろうし、本格的な議論は今後になるのではないか。仮に、給特法を見直して時間外手当を出す場合に、財政制約と健康維持のため、一定の上限がかかる可能性があると思う。その場合、今の超勤4項目を無視しているかごとくの学校、教育委員会では、過少申告等が起こらないか、心配。
Q3:中教審 とは、文科省の施策決定にどれぐらいの影響力をもっているものなんですか?
A3
それは、僕としてはよくわからない。教育は子どもへの影響が大きいので、慎重に議論し、様々な人の意見を取り入れる必要があり、そのためのひとつの場が中教審とは考えている。中教審で答申が出ても、結局予算を取れなければ、実現しないことも多い。国施策や予算がとれるかへの影響については、世論の動向なども重要になってくると思う。
改革にはいくつかの壁がある。①予算の壁。②人材確保の壁。③賛否両論が分かれるときの壁。③については、例えば、指導要録のあり方。学習評価を丁寧にやろうという意見もわかるし、そんな理想言っても今現場はそれどころじゃないんだから、もっと簡素化せよという意見もあると思う。③で賛否両論が分かれた場合は、国としては強くは言えないかもしれない。
Q4:教員の働き方をデザインするというのは、教育のあり方を考える事だと思います。中教審ではどの範囲で議論が可能なのですか?
A4
これからの教育のあり方として、新学習指導要領を実施することは確定している。その前提で、どこで負担軽減がはかれるかを議論している。大前提として、中教審では新学習指導要領をひっくり返すようなことは議論されない。
新学習指導要領は理想が高いのだが、それを今以上の過重労働で対応するのはいけない。すでに過労死等の人もいるのだし、一部の熱血教師だけが働ける職場にしてはいけない。いま中教審の部会では、登下校指導や掃除の時間、進路指導・問題行動への対応など、さまざまな業務について、これまで教師がやっていて当たり前だったことを見直そう、として議論している。それに、たとえば、掃除などは学習指導要領にほとんど書かれていない、日本の学校の慣習、伝統だ。一部は外部委託なども考えられると思うが、予算制約のなか、どうするかという問題はいつも付きまとう。
Q5:新学習指導要領 で自ら考えることが重視されているが、授業時数や教える内容が増えてしまうと、時間にゆとりがなくなってしまう。そうなると、子どもたちが試行錯誤するだけのゆとりがなくなる。無理なことをしようとしているのではないか。
A5
文科省もおそらく、アクティブラーニングを全ての時間、毎回やろうとは考えていない。単元、カリキュラムのなかでメリハリをつけてやることになる。
しかし、メリハリをつけるためにも、また深い学びとなる授業を設計するためにも、熟練や授業準備時間を要するのは、ごく当たり前の話。しかし現状は先生が忙しくて、授業準備等の時間がとれていない。個人的な考えとしては、教師の仕事としては、授業と授業準備がまず優先。それに比べると、部活動や登下校指導や掃除や行事の一部の優先順位は低くなるのではないか?しかし、何に優先度を置くか、何を減らしガマンするのかは、国や審議会で一律でどうこう決められるものではない。むしろ、当事者に押し付けてしまってもいけないので、各教育委員会や各学校で検討し、決められるようにしていくための一定の考え方や根拠は提案していきたいと考えている。
小学校で一部の学年でも教科担任制(あるいは複数教科のみをもつかたち)にしていくようなことも検討していく必要がある。今のところ、教職員定数の係数などを変更する話は中教審で出ていないと思うが、今後の議論になるかもしれない。ただし、目に見えているのは、定数改善は、財務省としては、恒常的な財政負担をOKすることになるので、とても嫌がられる。
教師業務アシスタントの話がよく出るのは、定数外で人員を確保しようとする話なので、まだ通りやすい。アシスタントがいれば、大いに助かるのだが、ただ、それだけで教員の過重労働が解決するものではない。山口県は定数増をしないで、小学校の一部の学年で教科担任に近いかたちとしているそうだ。今の制度でも、教育委員会の判断でできる。ただし、今の定数のままだと教科担任としても、授業時数は多くて、毎日キツキツではあるので、1人当たりコマ数の減少を今後も訴えていきたい。小学校では、二学期制と専科制の導入は負担軽減に重要で、中学校でも、コマ数減は重要。高校は、その高校の状況によって課題はまったく異なり、進路指導や受験指導が過度の負担となっているところもある。
また、児童生徒の登校の時間を遅らせたり、下校の時間を早めたりしようとすると、保護者からは反対意見も出てくると思う。自分も保護者なので、気持ちは重々わかるのだが、どう保護者や社会の理解を得ていくかも大きな課題。
ご多用の中、貴重なご意見を聞かせてくださった妹尾さんに感謝申し上げます。
現職審議会